佐賀を彩る100人 No.1 宮下大輔(36)Tea Salon TSUBAKI 代表
Tea Salon TSUBAKIとは
2025年10月1日
佐賀県嬉野市の老舗温泉旅館
「和多屋別荘」内にオープンした
「Tea Salon TSUBAKI」代表 宮下大輔さん(36)
鹿児島県出身の宮下さんが
なぜ佐賀県嬉野へ移り住み店を構えたのか。
その根底にある想いとストーリーに迫る。

宮下さん
「嬉野市でTea Salon TSUBAKI を経営している
宮下大輔といいます。
高校生まで鹿児島にいて、その後大学時代は
長崎の佐世保にいて、その後福岡の方に行って
5年前に嬉野に移住をしました。」
余所×余白×余韻を愉しむ
店が開くのは夜8時。1日の終わりに
訪れた人々の心を癒す場となっている。
コンセプトは -余所×余白×余韻-
日常から離れ”何もない時間”を五感で感じ
一日の余韻を愉しめる。

宮下さん
「私は夜のお店をしたいというところがあって
でもバーではなく、お茶や和の文化を中心とした
”ティーサロン”を作りたかった。
嬉野というまちは
500年以上続くうれしの茶
400年の肥前吉田焼という焼き物に1300年続く温泉
この三大産業がぐっと集約して
手を取り合っているところに惹かれました。
私がつくり手の想いや背景を大切にしているので
TSUBAKIで提供しているものはすべて
自ら現場に赴いて選んでいます」
種類豊富なメニュー

提供されるメニューは、煎茶やほうじ茶のほか
お茶を使ったビールやカクテルなども。
アルコールが好きな人も苦手な人も楽しめる店となっている。
来客の声

福岡県から訪れた人
「仕事をずっと頑張っていたので
そのご褒美ときのう誕生日だったので来ました。
お茶を最初に淹れてくれたが
きれいで視覚でも楽しめて、おいしかった」
嬉野市内から訪れた人
「ここだけ別空間というか疲れを癒せる場所。
仕事で行き悩んだ時に話を聞いてもらって
アドバイスもしてもらって
その中でお茶を提供してもらって
明日からまた頑張ろうという気持ちになれます」
店内すべてに「こだわり」
店はもともとあったバーを改装しているが
しつらえには宮下さんのこだわりが詰まっている。

扉を開き、店に入ってすぐに気付くのは「香り」
日本香堂の調香師とともに設えた
オリジナルのおもてなしの香りで
夜の静寂感と癒しを表現している。
宮下さん
「当店は最初に入ったら
香りでお客様をお出迎えしています。
この香りがお客様をお出迎えするんですが
夜のほっとする時間につながるような香りにしています。
渓谷に行って自分好みの流木を探しに行って
それを嬉野の窯元に持っていって
焼き物にしてもらいました。」

ソファに腰掛けると、傍らに佇むのは龍眼石。
自然が生み出した荒々しい岩肌に目を奪われる。

宮下さん
「こちらが”真柏(しんぱく)”という盆栽で
盆栽って松のイメージが強いと思うんですが
これはヒノキ科の「ミヤマビャクシン」という種類
白木の部分はわざと枯らして死んでいるんですけど
葉っぱから枝、幹につながっている部分は生きていて
生きている部分と死んでいる部分
生と死のコントラストをテーマにした盆栽となっています。
枯れているけど上に伸びているような力強さもあり
力強さと柔らかさを表現した盆栽として
お客様を見守る立場としてしつらえています」

2019年にTRADMAN’S BONSAI小島鉄平社長を知り
「生き方や考え方に感銘を受けた」という宮下さん。
その盆栽を自分の店に置くことは、一つの夢だったそう。
情熱の背景とは
難病「クローン病」宣告
宮下さん
「大学3年生の時、それまでは逆に
人生何も考えないくらい適当な人生を
過ごしていたんですけど
(就職の)内定が決まった翌月に
”2万人に1人の難病”と宣告されて」
告げられた病名は「クローン病」
全ての消化管に慢性的な炎症や潰瘍ができる病気で
完治させる治療法は確立されていない。

宮下さん
「当時は、なんで自分が?とずっと自分を責めたり
先生に当たってしまったりして、精神的にもきつく
生きる意味もわからなくなった時期もありました。
消化器官の特定疾患を患ってしまって
その中で食事制限ができてしまったんですけど
その中の一つに”アルコール”が入っていて
テイスティングはできるけど一定量飲むと
炎症が起きるようになってしまったんですね」
長期入院で出会った「お茶」
1年半に及ぶ長期入院に入り、生活は一変。
そこで、”お茶”と出会ったという。

宮下さん
「食事制限の中でもお茶とお水っていうのは
入院生活から今まで飲むことができて
お茶を掘り下げていくと、
もともとお茶も薬から始まっているし
様々な種類、効能、楽しみ方があるというのがわかって
入院生活が長くなる中で
現状は変えられないから、これから先
自分が何をしたいのか、何ができるのかって考えた時に
ハンディキャップを持った自分でも
人の役に立ちたいという思いが出てきました」
導いてくれた祖父の「2つの教え」

宮下さんの口から何度も語られる
「人の役に立ちたい」
その想いの根底には、祖父の教えがあった。
宮下さん
「親父が(自分が)5歳の時に亡くなって
当時、親父は36歳で亡くなったんですけど
家庭環境の変化があって
その後に祖父が親父の代わりとして育ててくれて
本当に母の偉大さも感じながらも
男のいろは的なものを教えてくれたのは祖父でした。
常に祖父が言っていたのは
商いは人を大切にしなさい。
人の前に立つ仕事は謙遜はするな。
でも謙虚な心を持て」
祖父の言葉を胸に
宮下さん
「祖父、強かったですね。
男気があって筋が通っているというか
かっこいいなと思っていました。
自分も祖父みたいになりたいと思った時に
やっぱり人を大切にしたいなと思って
自分も特定疾患を患ってから
よりそこを思うようになったんで
自分のために生きるというのも大事なんですけど
人のために生きたいというか、人の役に立ちたい」

嬉野で生きる”仲間”
同じ志を持つ友人も
宮下さんの想いに共感した仲間も。
15年来の友人で長崎県から嬉野に移住し
お茶のバー「茶屋二郎」を経営する松田二郎さんだ。

松田さん
「出会いは大学の在学中で、3つ上の方なんですけど
難病で入院されて2年間ぐらい休学されていたので
僕らと同じぐらいの年代の中で過ごして
いらっしゃったというところから出会いました。
ひょんなときに嬉野に来てもらうきっかけがあって
「お茶をやってます」と話をしたときに
「実は難病だから、飲めるメインの飲み物はお茶」
という話もされて
そこから僕がきっかけになったかは
分からないんですけど、
ここで大輔さんは嬉野に来たいと
思っていらっしゃったと思うんですけど
そこからすごい展開が始まりました」
と松田さん(右)-1024x576.jpg)
松田さん
「移住者として佐賀に来ている2人なので
外側から来た嬉野の魅力っていうのも
発信できればいいねっていうのを
2人でずっと話しているのと
うれしの茶のポテンシャルがすごい。
全国的に見ても味が濃いお茶の作り方をしてますし
お茶のバーを僕もやってるんですけど
カクテルにしてもお酒の強さに負けないような風味がある。
でもみんな知らないじゃないですか。
それをどれだけいろんな人に伝えられるか
というのをいつも話してます」
和多屋別荘 社長も期待

Tea Salon TSUBAKIが入る和多屋別荘の
小原嘉元社長も期待を寄せている。
小原社長
「宮下さんの仕事の熱心さと考え方。
おそらく100人のスタッフのうちの半分ぐらいは
宮下さんと接したり、仕事の悩みとかを
相談していると思うんですね。
そういったことが私にも返ってきてまして
宮下さんの働き方とか、人となりとか
何を考えて嬉野に来て、嬉野の価値が何で
和多屋別荘の価値が何で
みたいなことを私が伝えたいことを通訳して
うちのスタッフやお客様に伝えていただいている」

小原社長
「今後、TSUBAKIの空間の中で
お茶の表現というものを宮下さんが
時間をしっかりと重ねていくということに
興味があります。
その行為の集大成が600年、700年にわたって
文化を紡ぐ行為に直結すると思いますので
今のスタンスでお客様のご意見を取り入れながら
ご自身が得意とするお茶への向き合い方を
時間とともに、月齢とともに考えるというのを
徹底して時間を重ねてほしいと期待しています」
茶農家の想いも背負って
と宮下大輔さん(右)-1024x576.jpg)
宮下さんが「お茶の師匠」と慕うのは
市内で100年以上にわたって
うれしの茶を栽培している茶農家
副島園の四代目・副島仁社長。

副島社長
「とにかく土から触って、育てるっていうのが
基本的な農家の仕事ですので
その仕事を一年通して、作り手の思いを含めて
伝えてきたという形ですね
お客様に対峙した時に、我々の思いを
しっかりとストレートに伝えてくれる方々が
今からは必要になってくるので、
そのパイオニアで宮下さんが我々作り手の思い
様々なものの作り手の思いを伝えてくれる方に
なってくれればなと思っています」
嬉野の地で紡ぐ”夢”

宮下さん
「嬉野のまちは
産業的に焼き物、お茶、温泉も好きなんですけど
実際に移住してみたら
人も温かいし飾らずにいられるみたいな…
そういうところが好きだなって思ってます」

宮下さん
「一番はTea Salon TSUBAKIのテーマにもしている
お客様のホッとする時間・瞬間を
非日常の時間と空間で作るっていうのを
そこに自分の中では和の文化っていうのが大切で
もちろんその中のお茶っていうのも大切な一つになりますし
お客様の落ち着く時間っていうところを
通常、日常生活って対仕事とか対人とか
外にベクトルを向けがちなんですけど
夜の時間にお茶だったり、ティーカクテル
ノンアルコールのお茶のカクテルを通して
非日常の空間と時間でお客様がほっとできる
そういった場所を確立していきたいと思ってます」
思わぬ難病宣告をきっかけに動き出した人生。
嬉野の地で紡ぐ宮下さんの夢は終わらない。
「一度きりの人生
自身の意思と行動で納得する道を」と語る。
宮下さんが織りなす”非日常”の空間は、
忙しないすべての現代人にとって
このうえないやすらぎの場となるはずだ。
取材執筆:中村葉月
撮影:秀島望、中村葉月
